動物医療も日進月歩で進歩し,病気の診断や治療成績も昔に比べて格段に向上しています。しかし,正しい予防の知識さえもっていれば,病気そのものを防げることも意外と多いのです。しかも,病気によっては,一旦発症すると有効な治療法がなかったり,慢性経過をとる病気も少なくありません。
  病気の原因が次々と解明されるようになった今日,ヒトでは「治す医療」と同じくらい「予防する医療(予防医学)」が重要視されています。そして「治す医療」は専門家が努力すべき課題ですが,「予防する医療」は専門家による予防医学の研究もさることながら,家族や患者本人の理解と協力なしには達成できません。このことは動物においても同じことがいえます。飼い主の方が,動物と共に楽しく幸せに暮らして頂くためにも,自らはもちろんのこと動物達についても「予防する医療」を正しく理解して実践して頂くことを心から願っています。予防医学の普及啓発はホームドクターの責務と考えております。


 

 
 犬や猫にもいろいろな感染症(伝染病)があります。これらの感染症の中には,感染力が強く,死亡率が高いもの,治癒しても後遺症が残るもの,あるいは一旦発病すると慢性経過をとり一生治癒しないもの,さらには動物からヒトにも感染する動物由来感染症(人獣共通感染症;Zoonosis)も含まれています。
  犬や猫における感染症の大半はウイルス性疾患ですが,その多くは今なお特効薬や確実な治療法がありません。家族の一員である犬や猫達を,これらの恐ろしい感染症(伝染病)から守るためにはワクチン接種(予防注射)による予防が最も効果的です。すべての感染症についてワクチンが開発されているわけではなく,またワクチンの効果も100%ではありませんが,国内で発生している感染症(伝染病)の多くはワクチン接種を行うことで極めて高率に防ぐことができます。仮にワクチンで発症を完全に防げなかった場合でも軽症ですむことが多くなります。犬猫達を恐ろしい感染症から守るためには,飼い主の方の正しい感染症予防に対する意識と知識が大切です。
  これから犬猫の飼育を始める方はもちろんのこと,すでに今お家にいる犬猫達でワクチン接種を受けていない場合には,早めにワクチン接種を受けて下さい。



 
○狂犬病ワクチン
   狂犬病のワクチン接種は,この地域では市町村と協力して春に集合注射を実施しておりますが,動物病院で実施することも可能です。時間的あるいはその他の理由により集合注射に連れて行けない場合にはもよりの動物病院で必ず接種して下さい。
  近年,近隣諸国で狂犬病の被害が増加しています。日本では40年以上にわたって狂犬病は発生していませんが,外国から狂犬病の動物が入ってくる危険性には常にさらされています。
  接種時期:生後91日以上の犬では,1年に1回(井笠地区の集合注射は毎年春4〜6月)
  《狂犬病予防注射と手続きについて》
  生後91日以上の犬を飼育されている方は,市町村への登録(初年度のみ)と年1回の狂犬病予防注射の接種が法律(狂犬病予防法)で義務づけれられております。これに違反した場合には罰則(20万以下の罰金)も定められています。予防注射の実施は市町村の実施する集合注射あるいは動物病院のいずれで実施されてもかまいません。ただし,市町村が実施する集合注射以外の集合注射や動物病院で受けた場合には,その場で狂犬病予防注射済票の交付ができない場合があります。その場合には,必ず各市町村の窓口で獣医師が発行した狂犬病予防注射証明書を提示の上,狂犬病予防注射済票の交付を各自で受けて下さい。
※ 最近,市町村や獣医師会とは無関係に開業獣医師が独自に行っている集合注射や個々の動物病院で狂犬病予防注射を受けた犬において,指定獣医師ならびに市町村の発行する狂犬病予防注射済票の交付を済まされていない事例が多く認められ,社会問題となっております。咬傷事故をはじめとする何らかのトラブルが発生した場合,狂犬病予防注射済票の交付を受けていない場合は,狂犬病予防注射を実施していない犬と同じあつかいになる場合がありますので,必ず狂犬病予防注射票の交付を受けて下さい。
  犬鑑札 狂犬病予防注射済票
  左写真は犬の登録時に各市町村から発行される犬鑑札です。この犬鑑札は,登録時(登録費用:3000円)に1回のみ発行され,その犬が死亡するまで有効ですので大切に保管管理する必要があります。本来は首輪に付けるように定められていますが,首輪を利用しない場合や紛失を防ぐために,分かり易い場所に保管されてもよいかと思います。
  登録済みの犬において死亡あるいは所有者の変更ならびに住所に変更がある場合には,変更の手続きが必要です。
上記写真が狂犬病予防注射済票です。この済票は,その年度に狂犬病予防注射を受けたことを法的に証明するために必要なものです。市町村または指定獣医師が毎年注射済の犬に対して交付します。交付年度によって記載された年度ならびにプレートの色が異なります。
  予防注射済証明書
  左写真は岡山県獣医師会が作成している狂犬病予防注射済証です。この証明書は,狂犬病予防注射済票が即日交付でできない場合,後で狂犬病予防注射済票の交付を受けるための書類として獣医師が発行するものです。
  この証明書は,法律で定める上記の狂犬病予防注射済票の変わりにはなりませんので,すみやかに市町村の担当窓口にて狂犬病予防注射済票の交付を受ける必要があります。
  なお,狂犬病予防注射済票の交付に際しては交付手数料として550円が必要です。井笠管内の各市町村が実施している集合注射ではその場で済票を交付するため,左記の証明書は発行いたしません。
   

○犬用混合ワクチン
  当院で使用しているワクチン:
 当院では混合ワクチンとしては,現時点で最も多価ワクチン※1である9種混合ワクチン;ケーナイン-9(京都微研)を主に使用しています(フェレットは例外)。

上記ワクチン接種で予防できる犬の感染症:
 犬ジステンパー,犬伝染性肝炎,犬アデノウイルス2型感染症,犬パルボウイルス感染症,犬パラインフルエンザウイルス感染症,犬コロナウイルス感染症,犬レプトスピラ感染症(イクテロヘモラジー型,カニコーラ型,ヘブドマディス型)の9種類の犬の感染症について予防できます。
(それぞれの感染症の詳細については,他のホームページやワクチンのパンフレットをご参照下さい)

接種時期:
 《子犬の場合》 1回目→生後6〜8週齢
2回目→生後3カ月齢時
3回目→生後4カ月齢以上(以後1年ごとに追加接種)

当院では子犬のワクチンプログラム※2は上記の3回接種法を推奨しています。
また,成犬では年1回の追加接種※3健康診断※4を推奨しています。
 
○猫用混合ワクチン
 

当院で使用しているワクチン:
  当院では現在,猫用5種混合ワクチンフィーライン-CRP(京都微研)と猫用7種混合ワクチン;フィーライン-7(京都微研)を使用しています。

上記ワクチン接種で予防できる猫の感染症:

 
フィーライン-CRP(5種混合)
・・・・・ 猫伝染性鼻気管炎,猫カリチウイルス感染症(3株),猫汎白血球減少症5種類の猫の感染症が予防できます。
 
フィーライン-7(7種混合)
・・・・・ 上記の5種類混合ワクチンで予防できる感染症に加えて猫白血病ウイルス感染症とクラミジア症を合わせた7種類の猫の感染症を予防できます。
  (それぞれの感染症の詳細については他のホームページやワクチンのパンフレットをご参照下さい)

  完全屋内飼育ができない場合や屋外の猫と接触する可能性がある場合には白血病ウイルス感染症の予防効果のある7種混合ワクチンの接種を推奨しています。なお,白血病ウイルス感染症予防が含まれるワクチン接種を初めて受ける猫については,接種前に血液検査によるウイルス検査※5が必要です。

接種時期:
 《子猫の場合》 1回目→生後8週間
2回目→生後10〜12週(以後1年ごとに追加接種)
 《成猫の場合》 初めての接種の場合のみ2〜3週間の間隔で2回接種
(以後は1年ごとの追加接種)

 猫の場合には,子猫・成猫のいずれも初回接種時には2回接種を行います。その後は1年ごとの追加接種※3健康診断※4を推奨しています。
 
ワクチン接種を受けられる場合には,以下の点にご注意下さい。
  1. ワクチン接種は原則として健康な状態の時に行います。体調が悪い場合にはワクチン接種は避けて下さい。動物の健康状態が不明なときは,獣医師に相談して下さい。
  2. まれに特異体質などによりワクチン接種後に副作用が認められることがあります。過去にワクチン接種やその他の注射や内服薬によってアレルギーやショックなどの異常を起こしたことがある場合には,事前に必ずお知らせ下さい。
  3. ワクチン接種の直前に激しく運動させることは避けて下さい。発熱やパンティングにより正しい健康状態が把握できなくなります。
 
  1. ワクチン注射を受けてから2〜3日は安静にし,激しい運動やシャンプー・入浴は避けて下さい。
  2. 注射後,元気や食欲がなくなったり,軽い発熱があったり,便が軟らかくなったりするなどの軽い副作用が起こることがあります。
  3. 過敏な犬や猫では,ワクチン接種後にまれに高い熱や嘔吐,下痢,けいれん,唇やまぶたの腫れ,かゆみなどの異常がみられることがあります。このような症状が認められたときには,速やかに病院に連絡し,状態によっては受診して下さい。
  4. 薬物アレルギーなどの既往歴がある場合には,ワクチン接種後に院内でしばらくの間(30〜60分),様子を観察させて頂く場合があります。
  5. 子犬や子猫あるいは成猫の初回ワクチン接種の場合は,2回目あるいは3回目のワクチン接種が終わるまでは十分な免疫が期待できません。また,ワクチン接種による免疫ができるまでには注射から約2〜3週間かかります。十分にワクチン接種の効果が期待できる時期までは他の動物との接触を避けることはもちろんのこと,感染の危険性がある場所には不用意に連れて行かないで下さい。感染の危険性がある場所とは,不特定多数の動物が集まる場所や散歩コースが含まれ,具体的には公園,トリミングルーム,ペットショップ,ぺットホテル,さらには動物病院も含まれます。自宅の庭先であっても他の動物が自由に出入できる場合には注意が必要です。

 
※ワクチンの価格について
 動物病院での診療費はすべて自由価格であるためワクチン料金についても病院によって違いがあります。飼い主の方にすれば同じ注射を受けるのに,病院によって価格が異なれば理不尽に思われるかもしれません。
 ワクチンに対する診療報酬は(1)使用するワクチンとその原価の違い,(2)注射技術料の違い,(3)ワクチン接種時の健康診断やその他の検査および飼育指導や無料相談の有無,(4)その他の付加価値などによって異なっています。(1)や(2)についてはそれほど病院によって大きな違いはないと思いますが,(3)のワクチン接種時の健康診断や飼育指導については,病院毎に内容に違いがあると同時に無料の場合と別料金である場合があります。またCの付加価値の有無も重要です。ワクチン接種やフィラリア予防を行う病院こそが,その動物にとっての,「かかりつけ病院」であり,その病院の先生が「ホームドクター」となるわけですから,上記の点を十分に考慮にいれていただいた上で料金とサービスの内容を比較する必要があります。
 ちなみに当院では,ワクチン接種時の基本的健康診断と検便(集中法を含む)ならびに飼育指導は無料です。また,付加価値として,ワクチン接種を当院で定期的に実施している動物に対してのみ,ホテルサービス,無料電話相談,夜間・休日の救急時対応を行っております。
 
※犬における狂犬病ワクチンとその他のワクチンの同時接種について
 狂犬病ワクチンとその他の混合ワクチンとの同時接種は避けるように製造元の使用説明書に明記されています。すでに他のワクチンが接種されている場合や狂犬病ワクチン接種後に,他のワクチン接種を受ける場合には,最低1週間以上(できれば1カ月)の間隔をあけることが推奨されています。これらのワクチンは,それぞれ稀に重篤な副作用がおこる危険性があり,複数のワクチンを同時接種することにより,その副作用の発現率が増加するばかりでなく,より重篤な副作用が発現する恐れがあるからです。これまでに狂犬病ワクチンと混合ワクチンの同時接種例においては,死亡例を含む重篤な副作用が数多く確認されています。このため,当院では狂犬病ワクチンと混合ワクチンの同時接種については極力避けるように指導しています。これらの危険性を十分にご理解して頂いた上で,同時接種を強く希望される場合には,注射後はより注意深い観察をお願いすると共に,死亡を含む重篤な副作用が発生した場合でも,すべて飼い主の方の自己責任とさせていただきます。
 
※レプトスピラ症の発生状況について
 レプトスプラ症は,狂犬病と同様にヒトにも感染する動物由来感染症(人獣共通感染症;Zoonosis)で,牛や犬の他にも馬,豚,めん羊,ネズミ,キツネ,サルなど多くの動物に感染します。レプトスピラ症の感染は,原因菌(レプトスピラ菌)の保菌動物であるネズミを介して伝搬することが多く,我が国では犬や家畜で散発的に発生が認められています。
 各都道府県における犬レプトスピラ症の発生状況動物衛生研究所のホームページで公開されております。岡山県下においても,極めて少数ではありますが,ほぼ毎年発生が確認されております。公表されている発生状況は極めて散発的でそれほど多くありませんが,実際の発生状況よりも過小評価されている可能性があります(私見)。その理由としては,すべてのレプトスピラ症の犬が動物病院で診察を受けているわけではないこと,軽症のレプトスピラ症の診断は必ずしも容易ではなく,診断が付かない場合が少なくないこと,レプトスピラ症の疑いがあっても確定診断が行われていないことを理由に獣医師が届出を行っていないなどの事例が多いと考えられるからです。
 
※開業獣医師の方へ届け出のお願い
 犬のレプトスピラ症ではイクテロヘモラジー型とカニコーラ型について,家畜の場合と同様に家畜伝染病予防法の規定により監視感染症の中の届出伝染病に指定されています。監視感染症にかかった動物あるいはその疑いのある動物を診察した獣医師は,速やかにその所在地を管轄する都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。届出伝染病に指定されている感染症にかかった動物に対しては,狂犬病などのような家畜伝染病(法定伝染病)の場合に施行される行政的措置(と殺処分及び病性鑑定のための処分)は行われませんし,獣医師の届け出によって飼い主の方が不利益を受けることもありません。
 90年代の後半に犬レプトスピラ症が届出伝染病に指定されて以来,公表されているレプトスピラ症の発生件数は都道府県によってあまりに差が大きく,半数近くの都道府県では全く届け出がなされていません。実際のところ届け出が行われているところでも一部の限られた病院からのみの届け出であることが多いようです。犬におけるレプトスピラ症の診断基準については,実用性の観点から確定診断としてのレプトスピラ菌の検出やペア血清による抗体価の測定が行われていない場合でも病歴や一般的な臨床検査所見に基づいた判断でよいとされています。確定診断が得られていない場合でもレプトスピラ症と思われる動物を診察治療した獣医師は届け出を行って頂きたいと思います。書式等につきましては特に統一されていないようですが,念のため所在地の家畜保健所に問い合わせて下さい。
 届出義務の不履行は,届出伝染病の発生状況を過小評価することになり,各動物病院におけるコアワクチンとノンコアワクチンの概念や採用する接種プログラムの安全性や有用性にも影響を及ぼします。さらには我が国における獣医師の診断能力そのものを問われることにもなりかねません。ちなみに,家畜伝染病予防法の規定では「届出伝染病」及び「新疾病」については「家畜伝染病(法定伝染病)」の場合のような届出義務違反に対する罰則の適用はありません。しかし,届出は獣医師の義務であり,義務違反が度重なるときは獣医師法の規定による獣医師免許の取り消し又は業務の停止処分の対象となるものと考えられています。

 
 

フィラリア症(犬心臓糸状虫症)は,犬フィラリアと呼ばれる血液内寄生虫の感染※1によって起こる慢性経過をとる病気です。
 フィラリア症の発生は,近年では予防薬の普及により激減し,都市部ではすでに過去の病気といわれていますが,地方においては未だに少なくありません。全く予防を行っていない犬におけるフィラリア感染率※2は極めて高く,特に屋外飼育の場合には,3年程でほとんどの犬がフィラリアに感染してしまいます。フィラリア症の病態※3症状※4は,感染の程度や感染からの年数によっても異なりますが,通常は慢性経過をとり徐々に右心不全が進行し,多くの場合,犬の寿命を半減させてしまいます。時には急性経過をとるベナケバシンドローム(VCS,別名;大静脈症候群)※5を発症する犬もあります。不幸にしてフィラリア症にかかってしまった動物に対しては,適切な治療※6を行うことで,ある程度の回復が期待できますが,すでに心不全に陥った動物では完治させることはできません。
  犬の寿命を半減させてしまう恐ろしい犬のフィライリア症は,正しい予防で100%防ぐことが可能です。




 
 犬フィラリアは本来は犬科の動物に寄生する寄生虫ですが,これまでの研究や調査※7によって猫においてもある程度の注意が必要であることが解りました。
 猫におけるフィラリア症の症状や経過※8は,犬とはかなり異なります。しかも生前診断が難しい上,犬のように有効な治療方法が確立されておらず,死亡率が極めて高いのが特徴です。確実な診断法がなく,有効な治療法もないことから,愛猫を確実にフィラリアから守るためには,現在のところ予防以外に方法がありません。
 健康な猫におけるフィラリアの感染には,フィラリア子虫の大量感染が必要であるために,蚊にかまれる機会が少ない環境で飼育されている場合には,必ずしも予防の必要性はないと思われます。しかし,フィラリア感染犬が多い地域や免疫不全を起こしやすい猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス(いわゆる猫エイズウイルス)に感染している猫においてはより注意が必要かと思われます。なお,猫においてフィラリアの感染が疑われる場合には,血液検査のみでは感染の有無を確実にすることが困難な場合が多く,臨床症状の確認と超音波検査ならびにレントゲン検査が必要となります。



 
○フィラリア予防の方法
 フィラリアの予防は,予防薬を定期的に投与することで100%の効果が期待できます※注1。フィラリアの予防薬は,蚊の吸血時に動物に感染したフィラリア幼虫が皮膚や皮下組織内に潜んでいる間に駆除するためのフィラリア幼虫駆除薬です。感染初期のフィラリアの幼虫を定期的に駆除することで,フィラリア幼虫が成長しながら最終的に心臓や肺動脈内に進入して成虫になるのを防ぎます。
  ※注1:虫除けランプや蚊取り線香のみで,フィラリアの感染を完全に防ぐことは不可能です。

○フィラリア予防薬

 フィラリア予防薬には,犬では内服薬と外用薬(液剤)※注2および注射薬※注3があります。フィラリア予防薬の中にはフィラリア予防以外に,回虫や鉤虫といった消化管内寄生虫の駆虫効果があるものもあります。フィラリア予防薬は,基本的には極めて安全性が高く,健康な動物では副作用※9の心配もほどんどありません。当院では犬では内服薬,猫では内服薬と外用薬を取り扱っています。

   
 
※注2: 外用薬については,ノミ駆除薬とフィラリア予防薬を混合した製剤です。犬用と猫用にそれぞれの製剤がありますが,犬用に関しては投薬の確実性の観点から当院では取り扱っておりませんのでご了承下さい。
※注3: 注射薬は2001年に国内ではじめて認可されましたが,一部の犬で重篤な副作用の発現が報告されており,安全性の観点から当院では使用しておりませんのでご了承下さい。

○予防薬投与量と投与時期
    フィラリア予防薬の投与量は,犬の体重によって異なります。また投与時期については注射薬以外の予防薬では,蚊の活動時期※10の違いにより地域によっても多少異なります。
  当院では犬では5月上旬から12月上旬まで1カ月毎に合計7〜8回猫では6月下旬から11月下旬までの計6回を推奨しています。
  100%の予防効果を期待するためには,投与時期や投与回数,投薬量を正しく守って頂くことが極めて重要です。

○予防薬投与時の注意点
  1. フィラリア予防薬はすべて処方せん医薬品(以前の要指示薬)※11であるため,その処方には必ず獣医師の診察が必要となります。このため,カルテのない動物や,あるいは診察なしにフィラリア予防薬を処方することは法律上できません。
  2. フィラリア予防を始める前には,当院では毎年体重測定と血液検査によるフィラリア検査※12を受けて頂きます。
  3. お渡しした予防薬は,高温多湿を避け動物や小さな子供さんの手の届かない所に保管して下さい。
  4. 予防薬は指示された投与量と投与時期および投与期間を正しく守って下さい。
  5. 予防薬投与前には体重を測定し,体重が予防薬の袋に示された許容範囲内であることをご確認下さい。もし許容範囲を超えている場合には連絡して下さい。
  6. 予防薬投与時には正しく投与できたかどうかを必ず確認して下さい。
  7. 予防薬投与後に動物に異常が認められた場合には,軽度な場合でも直ちに連絡して下さい。
  8. 予防薬の有効期限は販売時期によってそのシーズン限りのものもあります。飲ませ忘れなどによって余った予防薬を次年度に持ち越すことは避けて下さい。


 

 
 犬や猫に寄生する消化管内寄生虫や消化管内原虫の種類は少なくありません。当院の過去15年間(1989-2003)の統計※1では,消化管内寄生虫や原虫が認められた動物は延べにして約3400件で,そのうち下痢などの明らかな臨床症状を示していた動物は,全体の13%と意外に少なく,残りの87%の動物は寄生虫や原虫を保有していても無症状でした。無症状であったものの多くは,子犬時の検便や定期的なワクチン接種あるいは不妊手術前の糞便検査で寄生虫の虫卵や原虫が確認された動物です。これら犬や猫に認められる寄生虫や原虫の多くは,犬や猫から直接的ではないにしてもヒトにも感染する危険性があり注意が必要です。動物の健康管理においてさらには公衆衛生的にも,定期的な糞便検査による消化管内寄生虫検査や駆除あるいは予防が大切です。なお,このことはヒトと共に暮らす,犬猫以外のすべての動物についても同様です。



 
 犬や猫に寄生する消化管内寄生虫や消化管内原虫の多くは,感染が認められても常に明瞭な症状を示すわけではありません。寄生する相手(宿主)から栄養をもらって生きているわけですから伝染病のように相手をすぐに殺してしまっては,もともこもありません。しかし,多数の寄生虫が感染したり,複数の種類の寄生虫が同時に感染したり,あるいは宿主となる動物の体力が落ちている場合や何か別の病気があったりすると事情は異なります。若齢動物や老齢動物では,体力がないため寄生虫の感染により重篤な症状を発症したり,時には命取りとなることもあります。また,寄生虫による栄養状態の悪化は,免疫力の低下にもつながり,別の病気を引き起こし易くなったり,他の病気を悪化させたり,治癒を遅らせるなどの原因にもなります。
  多くの消化管内寄生虫に共通する症状としては,削痩,食べても太らない,あるいは毛づやが悪いなどといった栄養状態の悪化が一般的です。さらに深刻なものでは,下痢,血便,嘔吐あるいは腹痛といった消化器症状が認められます。中には下痢ではないけれども便の最後に少し血がまじるとか,便の色が黒くなったりすることもあります。なお,重症例では貧血が認められる場合もあり,特に鉤虫の寄生した動物では,1匹の鉤虫が1日に0.8mlもの出血を引き起こすため,貧血を起こし易く,慢性化すると鉄欠乏性貧血と呼ばれる極めて深刻な病態になることもあります。



 
 消化管内寄生虫の感染源および感染経路※2は,虫の種類によって異なります。最も多い感染経路は経口的な感染ですが,この場合に成熟卵※3,外界で卵から孵化した感染能力をもつ幼虫,あるいは寄生虫の幼虫を保有する中間宿主※4などが感染源となります。また,鉤虫や糞線虫などは,感染幼虫が皮膚や粘膜から経皮的に感染することもできます。また,回虫や鉤虫では,その幼虫が胎盤を通じて胎児(胎盤感染)に,あるいは乳汁を介して授乳期の子供に感染(乳汁感染)することもあります。



 動物の消化管内寄生虫の検査は,主として検便によって主に虫卵や原虫のシストあるいは虫体※5を顕微鏡で確認する虫卵検査で行います。ただし,最も簡易な直接法とよばれる虫卵検査は,米粒程度のほんのわずかな糞便中に虫卵や原虫がいないかどうかを確認するものであるため,虫卵や原虫の絶対数が少ない場合には検出できない場合も少なくありません。また,寄生虫が感染していても産卵していなければ,虫卵検査は陰性となります。このため,寄生虫が多い地域や若齢時の動物では,1回の虫卵検査で陰性であったとしても,繰り返し検査を受けるようにするとともに,集中法と呼ばれる感度の高い消化管内寄生虫の虫卵検査を行う必要があります。特に子犬や子猫では,寄生虫が感染するような場所に連れ出さなくとも,母親からの胎盤感染や乳汁感染により高率に寄生虫を保有している可能性があります。このため,子犬や子猫では,生後1カ月時頃からその後のワクチン接種時などに繰り返し検査を受けることを推奨します。
  なお,犬条虫(別名:瓜実条虫)の場合には,糞便中に虫卵を排泄せず,虫卵を含んだ片節とよばれる虫体の一部が排泄されます。このため,病院での虫卵検査ではほとんど検出できません。犬条虫の寄生を確認するためには,米粒より少し大きめで糞便の表面に付着して伸びたり縮んだりしている片節と呼ばれる虫体の一部や一見ゴマのように見える乾燥した片節が肛門周囲や寝床に認められないかをご自宅で確認して頂く必要があります。



 
 消化管内寄生虫が感染している場合には,駆虫が必要です。通常は,注射薬または飲み薬を1回または複数回投与することで駆除できます。ただし,使用する駆虫薬の種類や投与量は寄生虫の種類や動物の状態によって異なり,中には注射でないと駆除しずらい虫もいます。動物病院以外で市販されている駆虫薬はほとんどのものは回虫にしか作用がありませんのでご注意下さい。なお,動物の一般状態が悪い場合には,駆虫だけでなく病態を改善させるための内科的治療が必要となる場合もあります。なお,回虫のように成虫は容易に駆除が可能であっても感染初期の移行幼虫の駆除が難しい寄生虫では,幼虫が成虫になるのを待って駆虫を繰り返します。また,一部の原虫などでは駆虫しても再発を繰り返すものもあります。いずれにしても駆虫後はしばらくして再度検査(2〜4週間後)を受けて虫卵や虫体の排泄の有無を確認して下さい。
  なお,駆虫後もしばらくは虫卵が排泄されるため,糞便の始末には十分注意して再感染や他の動物への感染源にならない配慮をして下さい。



 
○感染の予防
土壌中の成熟卵や感染幼虫に対する注意
 消化管内寄生虫のほとんどは経口感染しますので,虫卵を含む感染動物の糞便を舐めたり食べたりしないように注意して下さい。しかし,線虫類(回虫,鞭虫,鉤虫,糞線虫など)の多くは,土壌の中に成熟卵や感染幼虫※3として潜んでいるため,感染犬の糞便を直接を口にしなくとも,足の裏や体に付着した土壌中の感染源を舐めたりすることで感染し,さらに鉤虫や糞線虫では足の裏などの皮膚からでも感染(経皮感染)してしまいます。このため,寄生虫の多い地域では,土の上で遊ばせたり他の動物の排泄物が放置されているような環境を散歩させないなどの配慮が必要です。また散歩後に足をすぐに洗うことも感染予防効果があるかもしれません
ヘビ・トカゲ・カエルに注意
 マンソン裂頭条虫や壺形吸虫などは,その中間宿主である爬虫類(ヘビ,トカゲなど)や両生類(カエルなど)の補食,あるいはその死骸を拾い食いすることで感染します。このためそれら中間宿主※4を食べないように注意する必要があります。屋外で飼育している動物ではその狩猟本能のため,確実にそのような行為を予防することは困難ですが,猫では捕らえても直ぐには食べないことが多いので,それらの生物を捕まえてきたときには褒めたたえたりせず,また食べさせないようにして下さい。犬ではヘビやカエルなどの死骸を食べて感染することが多いので散歩中に拾い食いをさせないように注意して下さい。
川魚の生食に注意
 淡水魚は横川吸虫などの中間宿主です。動物に川魚を生で与えないようにして下さい。
ノミに注意
 犬条虫(瓜実条虫)は,その中間宿主であるノミを犬や猫が摂取することで感染します。ノミの感染した動物はしばしばノミが吸血する際の痛みやかゆみのため,その部位をなめたり咬んだりします。その時にノミを飲み込んだり,つぶれたノミから排泄された寄生虫の幼虫を舐めて感染します。このため,外部寄生虫であるノミの予防や駆除を正しく行うことで同時に犬条虫(瓜実条虫)の感染も予防することが可能です。
胎盤感染や乳汁感染の予防
 胎盤感染や乳汁感染が起こり易い回虫や鉤虫については,交配を行う前に親犬について寄生虫検査を行い,感染が認められる場合には駆虫を行う必要があります。しかし,特に回虫などでは成犬に感染した場合には,体内で成虫になることなく幼虫のままでとどまっていることが多く,虫卵検査では感染を証明することができない上,幼虫期の寄生虫については確実な駆除も困難なのが実状です。このため,出産を計画する親犬に対してはより感染予防を徹底することが重要です。また,母子感染や乳汁感染した子犬は,出産後しばらくすると回虫卵を排泄するようになるため,子犬の糞便が新たな感染源となってしまいます。子犬が生まれたら生後2〜4週齢の時点で健康診断をかねて検便を行って感染の有無を確認することを推奨しています。

○定期的駆虫薬の投与
   春から秋にかけて定期的に飲ませるフィラリア予防薬の一部のものは,フィラリア予防効果に加えて消化管内寄生虫の駆虫効果があるものもあります。ただし,フィラリア予防薬で定期的に駆除できるのは線虫類だけで他の寄生虫や原虫については全く効果はありません。
 定期的な健康診断による糞便検査を行い,寄生虫の感染が確認された場合には,確実に駆虫を行い,感染源を拡大しないようにすることが,しいては寄生虫の予防にも貢献するかと思います。
 
○土壌からのヒトへの感染に対する注意
   動物の寄生虫は,ヒトにも感染する危険が高いため注意が必要です。感染動物が糞便の排泄によって土壌を汚染した場合,土壌中の寄生虫の虫卵は温度変化や乾燥に対して強い抵抗性を示し,1年以上感染力を保持した状態で生存することもあります。
 まず,自らの動物達が感染源を拡大しないようにするためにも,動物病院で定期的な糞便検査を受けると共に,普段から動物の排泄物に責任ある管理を行って頂く必要があります。最低限のマナーとして散歩中に排泄した糞便については持ち帰り,正しく始末して下さい。
 糞便の始末については,焼却処分される燃えるゴミとするか,少量であればトイレに流して頂いてもよいかと思います。ただし,地域によっては下水や自宅の浄化槽に動物の屎尿を流すことが禁じられている場合もありますのでご注意下さい。穴をほって埋めたりする場合には,簡単に動物が掘り返すことができないように注意すると共に,臭いやウジなどの発生源にならないように十分配慮して頂く必要があります。
 すべての動物の排泄物を飼い主の方が,正しく始末していただければ,本来土壌の汚染は起こりません。しかし,野良犬や野良猫の問題,さらには放し飼いの猫では難しい問題であり,また農村地帯においては,今なお犬においても放し飼いの問題や散歩中の糞便の後始末などが徹底されていないのが現状です。特に農村地帯においては,自然浄化力が強いこともあって散歩中の犬の糞便を自宅に持ち帰るといった町中ではあたりまえの習慣でさえ守られていない場合が少なくありません。その結果が,当院での少し恥ずかしいような消化管内寄生虫の統計調査結果※1に現れているのではないかと思います。小川や野菜などが栽培されている田畑に寄生虫の卵が多量に含まれているかもしれない糞便をばらまかないで頂きたいと切に願うところです。一部のマナーを守れない人たちが,多くの動物や多くの人々に対して健康被害の恐怖を与えていることになります。
 いずれにしても環境中の寄生虫の感染源を淘汰することはすぐには難しい状況です。そして土壌中に潜む回虫などは時に子供を中心にヒトへの被害が懸念されています。数年前に実施した幼稚園などの砂場の寄生虫卵の保有状況は極めて深刻でありました。特に猫が砂場をトイレがわりにしている事例が多いため,自由生活をさせている猫に関しては,少なくとも糞便検査を定期的に行い,愛猫の糞便が感染源とならないように注意すると共に,できれば自宅あるいは自宅の敷地内でのみトイレをさせる習慣をつけて頂きたいと思います。
 また,子供の遊び場となるような砂場においては,子供達の健康を守るために野良猫や自由飼育の猫の進入を防いだり,使用しないときはシートなどをかけるなどして猫のトイレにされないように配慮するなどの対策も有効な予防法です。もちろん,土遊びや砂遊びをした後は,よく手洗いを行うことを子供達に徹底させることが最も基本的で確実な予防法です。

○犬条虫のヒトへ感染に対する注意
   犬条虫は,その中間宿主であるノミから犬や猫に感染しますが,同様の経路でヒトにも感染します。犬や猫の体にいるノミを飼い主の方が見付けた際に,捕まえて爪で潰される光景を目にします。この時,潰されたノミから飛び出した犬条虫の幼虫は,指の先や爪の間に付着して,手洗いが不十分であればヒトへ感染する危険性があります。もし,ノミを捕まえた場合には潰さずに粘着テープなどに貼り付ければそのような危険は避けられます。またノミを予防したり安全に駆除する方法(※外部寄生虫:ノミの駆除・予防参照)がありますので,詳細は動物病院でお問い合わせ下さい。


 

 
 ノミは体長2mmほどの小さな昆虫で,その成虫はヒトや動物の体表に寄生して栄養摂取のため2〜3日毎に吸血を行います。犬猫で問題となるノミには,ネコノミとイヌノミがいますが,ネコノミは宿主特異性が低く,犬に寄生しているノミも,そのほとんどはネコノミです。また,ネコノミの被害は犬や猫のみならず,家畜やヒトへも波及しており,大きな問題になっています。



 
○ノミの生活環
   動物に寄生するのは成虫だけで,ノミの幼虫やさなぎは環境の中で発育します。受精したメスのノミは生涯で平均160個(1日に50個)の卵を産卵し,その卵は環境中に落下します。卵は,13℃以上の環境では数日で孵化し,幼虫となります。幼虫は,ノミの糞や有機堆積物を食べて生活し,さなぎ(まゆを形成)を経て成虫になります。この発育サイクル(生活環)は,理想条件下では2週間あまりで,長い場合は21カ月に及ぶ場合もあります。いずれにしても室内環境ではノミは年間を通じて寄生と繁殖を繰り返すことになります。ちなみに環境中に存在するノミの卵,幼虫,さなぎの数は,成虫の20倍近くあり,ノミの成虫は全体のわずか5%に過ぎません。

○ノミの感染経路
   ノミの成虫は,6〜12カ月間生存します。この間,常に動物の体表で生活しているわけでなく,多くの期間をその周囲の環境で過ごしています。環境中に潜んでいるノミは,ヒトや動物から発生する炭酸ガスや震動などに反応して跳び移ります。動物が集まる公園はもとより,散歩コースの環境中にはノミが潜んでいる可能性が極めて高いといえます。自宅の庭先でさえ,野良ネコなどが行き来き出来る環境であればノミが潜んでいるかもしれません。  

○ノミの病害性
   動物やヒトに対するノミの被害は,吸血の刺激に伴う痛みやかゆみなどの直接的な病害性だけではありません。多量のノミが慢性的に感染すると,貧血が起こる場合もあり,特に子犬や子猫で問題となります。また,ノミの咬傷は細菌感染を引き起こしたり,貧血を引き起こす猫ヘモバルトネラ症の病原体を媒介することもあります。さらに犬猫では遅延型アレルギーで激しいかゆみと背中の脱毛を特徴とするノミアレルギー性皮膚炎を起こしたり,動物やヒトに対して犬条虫(瓜実条虫)を媒介するなど,健康上重大な問題を引き起こすこともあります。また,猫からヒトに感染することのある恐ろしい病気である「猫ひっかき病」の病原体は,ノミによって猫から猫へ伝搬されるといわれています。

○ノミの駆虫
   ノミの寄生が確認された場合に,そのノミを駆除する方法としては,ノミ成虫駆除剤を使用する方法と昆虫成長抑制剤(IGR)と呼ばれる薬剤を使用する方法があり,さらに最近ではその両者を兼ね備えた薬剤もあります。ノミ成虫駆除剤はノミの成虫を駆除しますが,卵や幼虫およびさなぎには効果がありません。一方,昆虫成長抑制剤は,卵の孵化阻止や幼虫の発育阻止によりノミが成虫になるのを防ぎ,薬剤耐性や投与間隔の不徹底で成虫駆除が不完全となる場合などに,極めて効果的です。ただし,この昆虫成長抑制剤のみの使用では,ノミの成虫に対しては殺虫効果がないため,閉鎖環境においてもノミがいなくなるまでには時間はかかり,また外部から新たにノミ成虫が感染する場合には,効果的ではありません。
  当院では,ノミ成虫駆除剤であるフィプロニルと昆虫成長抑制剤(IGR)である(S)-メトプレンの混合剤であるスポットタイプ(滴下式タイプ)のプロントラインプラスをご用意しています。プロントラインプラスは,ノミとダニの両方に駆除効果があり,一回の使用で1〜2カ月間効果が持続し,犬猫いずれに対しても安全性の高いことが特徴で,3本入りと6本入りのものがあります。また,プロポクスルとフルメトリンが有効成分で2〜4カ月間効果が持続する首輪タイプのノミ・ダニ駆除剤であるボルホカラー(犬用)も用意しています。
  これらのノミ成虫駆除剤を使用すると体表に付着しているノミの成虫はすぐに死滅します。しかし,ノミの寄生を見付けたときには環境内にすでに卵や幼虫あるいはさなぎが存在している可能性が高いため,数ヶ月間はノミ成虫駆除剤を使用する必要があります。また,床やカーペット,さらには部屋中のほこりを掃除機でできるだけ取り除くことは,環境中の卵や幼虫あるいはさなぎを減らす効果があります。

○ノミの予防
   ノミを寄せ付けないためには,外部からノミが進入しない閉鎖された環境で飼育する必要があります。しかし,そのような生活環境でさえもヒトによってノミが運ばれてくる可能性があります。実際には,散歩中はもとより,ペットホテル,トリミングルームさらには動物病院でノミをもらってしまうケースもあり,その場合は直ちにそのノミを駆除することが現実的といえます。上記に示したような動物病院で販売している持続効果のあるノミ成虫駆除剤を定期的に使用しておけば,ノミが体表に付着した時点で吸血と産卵を行う前に駆除することができます。ちなみに,ノミ成虫が産卵するのは動物に寄生して36〜48時間といわれています。当院で使用しているスポットタイプのフロントライン(プラス)が1カ月以内(犬では2カ月以内)に投与されていればノミが寄生しても12〜18時間後までにほぼ100%駆除することができます。
※市販のノミの忌避剤や駆除剤について
 超音波ノミ取り首輪やノミの嫌う臭いでノミを寄せ付けないようにする忌避剤なども市販されているようですが,効果的な方法とはいえません。また,ペットショップやホームセンターなどで市販されているノミ駆除剤で,十分な効果が認められない場合がありますが,これはノミが薬剤耐性を獲得しているためで,特にネコノミでその傾向が強くなっています。さらに有機リンやカーバメイト系の犬用ノミ駆除剤は,中毒に注意する必要があります。なお,これらの薬剤は猫では使用すべきでありません。
 
 マダニは,クモ類に属する吸血性の外部寄生虫で全国的に生息が確認されています。マダニは宿主の皮膚に頭部のくちばしを突き刺して,満腹になるまで血液を吸います。この際,くちばしが簡単に抜けないようにセメント様物質で固定するため,吸血中のダニを取り除くのは容易でありません。また,吸血の際に唾液を分泌することで,さまざまな病気を媒介します。



 
○マダニの生活環
   マダニのメスは死ぬ前に環境中に数千個の卵を生みます。そして卵から孵化した6本足の幼虫は,2〜3週間後に8本足の若虫となり,最終的に成虫へと成長します。マダニは生涯のほとんどを草や葉の上で過ごしますが,卵以外のそれぞれの発育段階で,宿主に寄生して栄養を摂取(吸血)します。

○マダニの感染経路
   マダニはノミのように高く飛び跳ねたり素早く走ったりはできません。しかし,お腹をすかせた幼虫,若虫および成虫は地上や葉の上で宿主の到来をまっており,そこへ動物が近づくと炭酸ガスや振動などの刺激により素早く宿主に飛び移ったり足に付着したりします。そして,皮膚の薄いところを探して吸血を行います。

○ダニの病害性
   マダニは,1匹あたりの吸血量が多く,大量に寄生すると動物に貧血を起こします。また,マダニは吸血時に唾液を繰り返しはき出すため,マダニに刺された後の傷はノミの場合よりも強い炎症を引き起こします。さらにマダニは,さまざまな病気を媒介します。動物で最も問題となるのは,犬のバベシア症で地域によっては非常に多発しています。犬バベシア症は,貧血や肝障害により犬を死に至らせる恐ろしい病気で,重症例では治療は容易でありません。その他にも,マダニは,ライム病,エールリッヒア症,ヘパトゾーン症,Q熱,野兎病,日本紅斑熱,ダニ媒介性脳炎など多数の病気を媒介します。これらの病気はいずれも極めて深刻な疾患であり,治療を行ってもしばしば致命的となったり,人獣共通感染症やヒトの病気も含まれています。

○マダニの駆虫
   マダニの寄生が確認された場合に,ピンセットなどでくちばしが残らないようにゆっくりとマダニを取り除きます。この際,ヒトに対しても危険な病原体が含まれている可能性があるため手袋の着用をお勧めします。多数のマダニが寄生している場合には,有効な駆除剤を使用します。当院で使用しているフロントライン(プラス)はマダニの駆除にも有効であり,48時間以内に寄生するマダニのほとんどを駆除することが可能です。フロントライン(プラス)の詳細はノミの駆虫を参照して下さい。

○マダニの予防
   マダニは山林や河原の土手などの草むらに生息している場合が多いので,マダニの生息地域ではそのような場所に動物を近づけないことが大切です。さらに,動物に一旦寄生したマダニが幼虫や若虫の場合には,吸血後一旦宿主から離れて改めて次の発育ステージで別の動物に寄生します。このため,山林や河原以外でもマダニの寄生している動物が散歩したり遊んだりする公園などではマダニに感染する危険性があります。マダニ駆除効果が持続的に期待できる薬剤を定期的(フロントラインの場合は1ヶ月に1回)に使用することにより,マダニが体表に付着してもすみやかに駆除することができます。
 
 犬や猫にはシラミ・ハジラミの寄生が稀に認められます。シラミは吸血しますが,ハジラミは吸血せず皮膚片を摂取します。いずれも宿主特異性が高く,動物種によって寄生しているシラミやハジラミの種類は異なり,動物のこれらの寄生虫がヒトへ感染したりすることはありません。ただし,シラミやハジラミの寄生は,その動物に皮膚炎を引き起こし,かゆみ,紅斑などが認められます。当院でシラミやハジラミの寄生している動物をみることはほとんどありませんが,多発している地域もあり,特に購入直後の動物については注意が必要です。駆除は通常のノミ成虫駆除剤で容易に可能です。
 
 マダニ以外でも動物に対して皮膚病を起こすダニがいくつかあります。その代表的な疾患は以下の通りです。
○疥癬(ヒゼンダニ)
   疥癬は,非常に激しいかゆみを伴う寄生虫性の皮膚疾患で,初期には肘や耳の周囲に病変が出現し,激しくなると頭や全身が象の皮膚のようになります。この病気の原因は,犬では穿孔ヒゼンダニ,猫では猫小穿孔ヒゼンダニが感染することで起こります。このダニはマダニなどと異なり顕微鏡でないと見えない小さなもので,宿主の皮膚表層にトンネルを掘って寄生します。感染は,疥癬の動物との接触で起こりますが,最近疥癬にかかった野生のタヌキなどから犬に感染するケースが急増しています。疥癬の動物からヒトへの感染もしばしば認められます。診断や治療は比較的容易です。

○耳疥癬(ミミヒゼンダニ)
   耳疥癬は,体長0.3mmほどの小さなダニで動物の外耳道に寄生します。耳疥癬は,犬猫のみならずフェレットなどでもしばしば認められ,かゆみの強い外耳炎を引き起こします。耳疥癬の動物では,乾燥した耳垢が多量に出るのが特徴で,しきりに耳を足でかいたり,頭をふったりします。耳疥癬は,感染動物との接触により容易に感染するため,衛生状態のよくない繁殖施設や収容施設ではすべての動物が感染している場合もあります。ヒトへの感染の心配はほとんどありませんが,アトピーなどがある場合には悪影響があるかもしれません。新しい犬猫あるいはフェレットなどを迎え入れる際には,耳疥癬は必ず病院でチェックを受けておくべき病気の1つです。診断や治療は容易です。

○ニキビダニ(毛包虫)
   ニキビダニは,ヒトや動物の毛包内に寄生する体長2〜3mm,体幅0.04〜0.05mmの細長い形をしたダニです。このニキビダニは健常動物でも認められ,他の外部寄生虫と違って動物同士で伝搬することはありません。遺伝的な理由やその他理由で皮膚の免疫防御機能が損なわれた時に皮膚病(ニキビダニ症,毛包虫症)を発症します。ニキビダニ症の診断は,比較的容易ですが,治療は非常に難しく根気が必要であると共に根治が難しいことも少なくありません。また,遺伝的な要因が疑われる場合には,それらの動物を繁殖に使用すべきではありません。

○ツメダニ
   ツメダニは,0.5mmくらいの透明で伝染力の強いダニで,皮膚表面に寄生します。ツメダニが寄生すると,首から背中にかけてふけが多くなります。日本ではツメダニは犬で時折認められる程度で猫では稀です。ツメダニは,ノミやマダニの駆除剤で簡単に駆除あるいは予防することが可能です。
 

 
 歯周病とは,歯肉炎と歯周炎を合わせた病名で,かつては歯槽膿漏と呼ばれていた病気です。歯周病は,口の中にいる歯周病原菌が,歯と歯茎の間から歯肉に入り,歯を支えている組織に炎症を起こして,最後には歯が抜けてしまう病気です。歯周病はヒトでも大変多い病気ですが,犬や猫も例外ではありません。犬や猫では,ヒトで多いむし歯(齲食症)の発生は極めて少ないのですが,歯周病に関しては,ヒトと同じかそれ以上に多いのです。
 
 歯周病の原因は,歯と歯茎の間に付着するプラーク(歯垢)です。このプラークは単なる食べかすではなく,70%以上が細菌の塊で,本来は病原性のない常在菌がほとんどを占めます。しかし,このプラークを放置することで唾液中のカルシウムなどが沈着して歯石になると共に,歯周病の原因菌が増殖するようになり,歯肉の炎症を引き起こすことになります。プラークコントロールができていない犬や猫ではプラークや歯石が徐々に増加すると共に歯茎や歯根に感染が進行し,歯肉と歯の間に歯周ポケットとよばれる溝ができます。さらに歯周病が進行すると,歯周ポケットが深くなり,歯を支えている歯槽骨が溶け溶け,歯がぐらつきはじめます。そして最後には歯が抜け落ちてしまいます。
  歯周病は,歯周囲の慢性感染症ですが,病態が進行すると,歯肉の傷から血液中に細菌が入り込むことで,全身の主要臓器の感染症に発展する危険性があります。特に血流の多い肺,心臓,肝臓,腎臓などでは,致命的な重大な病気が発生することがあり,動物の寿命を短くしてしまう要因となりかねません。



 
 歯周病の初期症状としては,プラークや歯石の付着に加えて歯肉の炎症が認められ,口臭が生じます。この時期に適切な治療を受ければ,症状はすぐに改善します。しかし,この状態を放置するとさらに歯石が増加し,歯肉炎や歯周炎が進行し,歯茎からの出血や膿がでるようになります。中には目の下や顎の下に膿瘍が形成され,破裂して膿が出てくることもあります。また,歯がぐらつきはじめると,硬い食事を食べにくそうになったり,食欲がなくなるなどのより深刻な症状が認められます。さらに,全身への細菌感染を合併した場合には,全身的な症状が認められるようになります。



 
 初期の歯周病は,飼い主の方が気づいていないことが多く,ワクチン接種時や定期健康診断時に発見されることがほとんどです。普段から歯肉の状態や歯石の付着状態などを注意して観察して頂ければ,自宅でも早期発見は可能です。歯周病と診断された動物では,程度が軽い場合には歯石除去と短期間の抗生物質の投与で治療が可能ですが,重度なものでは抜歯や長期的な治療が必要となります。



 
 一旦歯周病になってしまうと治療には大変な時間と費用がかかります。動物の歯周病に関しても,ヒトと同じように適切なデンタルケアによって予防することが大切です。動物の歯周病の予防も,基本的にはヒトと同じです。すなわちプラークコントロールが基本となります。理想的には,毎食後の歯磨き(ブラッシング)をしてあげることです。歯磨きはプラークと歯石に対抗する最も効果的な方法で,これに勝る方法はありません。当院では酵素入り歯磨きとブラシのセットをお勧めしています。歯磨きを上手に行うためには子供の時から習慣付けることが大切です。なんと,歯磨きをしている犬はそうでない犬よりも寿命が1年以上長かったとする海外の報告もあります。
  歯磨きが上手くできない場合には,プラークや歯石の蓄積予防効果のあるガムや特別な食事(Hills t/d)などを与えることも有効な方法です。また,缶詰や半生フードを主食とせず,ドライフードを与えた方が歯石が蓄積し難い傾向があります。いずれにしても歯石の付着を完全に防ぐことは難しいので,定期的に動物病院で歯石除去を行うことをお勧めします。
  なお,小型犬では乳歯遺残がしばしば認められますが,これを放置するとプラークや歯石がつき易くなります。このため,乳歯遺残が認められる場合には,不妊手術時または生後1歳齢時ぐらいまでに遺残した乳歯を抜歯することをお勧めしています。





 当院における歯石除去の方法は,基本的にはヒトの歯科医院で行う方法と同じです。超音波スケーラーと呼ばれる歯石除去装置を利用して歯に付着した歯石をまず根こそぎ除去します。超音波スケーラーによる歯石除去のみでも,歯は綺麗になり口臭もなくなります。しかし,スケーリング後の歯の表面には小さな傷が沢山付いていて,このままの状態では,またすぐにプラークや歯石が付着してしまいます。このため,歯石除去後はポリシング(歯の研磨)を行って歯の表面をツルツルにしてプラークが付きにくくすることが重要です。当院では歯石除去の際には,必ず研磨剤を用いたポリシングも同時に行っています。これら一連の処置をきちんと行うためには,かなりの時間を要します。さらに,動物に対して,このような処置を行うためには全身麻酔が不可欠となります。歯石除去時の全身麻酔は動物にとっては眠っている間にすべての処置が行われるため,痛みや恐怖を感じなくてすみますが,全身麻酔の危険性については十分に考慮する必要があります。特に歯周病の多い高齢動物では,心臓病や慢性の内臓疾患なども多く認められるため極めて慎重な麻酔管理が必要となります。当院ではこれらの点を十分に考慮した上で,大きな手術を行う場合と同様に完全な麻酔システムや生体監視システムさらに体温維持装置など,徹底した麻酔管理を行うと共に処置後の集中管理にも心がけています。なお,麻酔をかける前には全身状態を把握するために血液検査を中心とした麻酔前検査をさせて頂きます。
当院での歯石除去には予約が必要であると共に,処置後の安全確保のため1日入院が必要となることもあります。詳しくは獣医師またはスタッフにお尋ね下さい。

 
 

 

 



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